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己の指先を見て、恋人の視線が凍りついた。
致し方のないことだと伊助は思う。

「どうしたの、それ」
「ああ、家業の手伝いをしたものだから」

納得したようだ。
家業というのは染物屋である。
異常という言葉でも足りないほど、
伊助の指は青く染まっているのであった。

「藍染めだよ。
 他の色よりも目につくね、藍の指先というのは」
「血の気が引いて凍ったようだわ」

本当だ、と伊助は笑った。

「伊助は染物屋さんになるの?」
「そうだね……恐らく。半々かもしれない」

忍と二足の草鞋でつとまるとは、
本当は伊助は思っていない。
いつか来る選択の時を、
今はまだ後回しにしているというだけのことだ。
この話をすると恋人がいつも我がことの心配のように
複雑そうに黙り込んでしまうのを知っているから、
伊助は明るい声で話題を別のほうへとそらした。

「藍染めには面白い言葉があるんだよ」
「……おもしろい?」
「そう。
 染料液をね、何度も使い回すことがあるのだけど、
 布に色素がしみこむには
 染料が活性化している必要があるんだ。
 けれどたとえば一晩寝かせたりしてしまうと、
 染料も大人しくなってしまって布に色がつかない」

少し説明くさい話になってしまったので、
恋人が退屈そうな顔をしなかったかと伊助はチラと
隣に座る人の顔を伺い見た。
続きを促すような顔をしているので安心して続ける。

「だから、活性化のために藍液を起こすときは
 薬品を入れて化学変化を起こしてやるんだ。
 そうすると、そのうち藍液の表面に泡が立って、
 濃い色をつける染料としてまた甦るわけ」
「へぇぇ……」

感心しきりの恋人を、本当はときどき変わり者と思う。
染物屋の話を嬉々として聞く人など、
忍の学園には稀であったので。
そしてそういうところが愛おしいのだ。
滅多に言えたものではないが。

「で、その表面に泡が立つことを」

あ、しまったぞと伊助は一瞬焦った。
ここが肝要なのだからこそ、
聞いた恋人が下手に意識しないように
さらっと何気なく言うつもりだったというのに。
緊張してしまったのか、わざとらしく一拍あいてしまった。
ああ、不覚と伊助は内心ちょっと落ち込んだ。

「……藍の花が咲く、というんだ」
「あいの、はな……」

案の定だ。
恋人は聞くなり、伊助の言葉に愛情ゆえの含みがあることを
明らかに期待している顔をした。
嘘だろう。
これ以上解説する気はないんだけど。

「……ちょっと、ロマンチックな気がするよね」

誤魔化されてくれはすまいか。
ああしかし、恋人の期待は枯れなかった。
彼女は満たされて幸せと言いたげに微笑み、
伊助が咲かせたその“あいのはな”、見てみたいな……
と、ちいさな声で囁いたのだった。




ファイル起こすほどじゃない話を
変換なしでブログに起こしてみることに。
ちいさな恋の物語。

のねむは高校時代に
染め物と機織りをやる学科に通っておりました。
藍染めで反物(12メートル)を鹿の子絞りで染めました。
長すぎて気が遠くなって死ぬかと思った orz
それで知った「藍の花」という言葉を
無理矢理使うに良いポジションにいたのが伊助でした。
ただ藍染め解説の細部は間違っているはずです。
活性化というか酸化というか……
実習あるのみで特に理論は習わなかった気が orz
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