「タカ丸さぁん……今のはまずかったッスよ……」 「えぇ、なにが?」
天然で聞き返してくる忍者初心者の先輩に、 らんきりしんはしょうがないなぁと言いたげに 目を見交わした。
「ああ、ほら、食満先輩出て行っちゃった」 「潮江先輩がすごい居心地悪そうにしてる……」 「?? なんのこと?」
あのねぇ、と三人は困った顔でタカ丸に教えてくれた。
さっきタカ丸さんと一緒に食堂へ来たのは、 くの一教室にたったひとりだけ六年間生き残った 最上級生の先輩なんだ。 用具委員長の食満先輩はその人のことを ずうっと大事に思っていたんだけど、 つい最近になってやっと両思いになれたらしい。
「えぇ、それって、やばいじゃん」 「気付くの遅いよ、タカ丸さん!」 「そっかぁ……俺、先輩の彼氏の前で、 髪がどうこうって言っちゃったんだぁ……」
そりゃあ、食満先輩も気分を害するわけだ。
「六年生を敵に回したくはないよ」 「そりゃあ誰だって嫌だよ! プロに近いくらいの実力者だよ、六年生なんていったら」 「うう、俺、まだ死にたくないし」
くの一たちの髪を結ってあげるのも、 ちょっと考えたほうがいいのかもしれないなぁ。 タカ丸はしょんぼり呟いた。 そのうち学園中の男を敵に回すなんてことになったら おっかなくてやってられないよ。
「しかも、今日もめちゃくちゃ美人だよ、なんてさ」
信じられないねと言われ、タカ丸はまた首を傾げた。
「なんで……? それ言っちゃ悪い?」 「そりゃあ、そうでしょ!」
言いたくても恥ずかしくてなかなか言えない褒め言葉を、 よりにもよって自分の目の前で 他の男がさらっと口にしたりしたら、さぁ! 男なら誰だってむかっ腹が立つって! それに先輩がにっこりありがとうなんて返すから尚更さー。 でもあの先輩はそういう人なんだけどさー。
食堂を出ていってしまった恋人を追いかけるくの一を 見送りながら、タカ丸は仲のいい二人の間を 掻き乱してしまったらしいことを素直に申し訳なく思った。 そして、一年生ながら人の関係をよく見ている彼らを ちょっと見直してしまったのだった。
宵番外の「嫉妬」冒頭の食堂にて。
そういえばこの話ではないのですが、 「夢醒めやらぬ」の三話目? かどこかで 文次郎が夢で見た学園の回想部分は 「宵のみぞ知る」の現在とリンクしています。 食満くんの彼女がくの一で、 怪我をするまで完璧だったとかいうくだりは そこらへん見ていただけたら……みたいな……! これを三話目更新時の言い訳で言い忘れておりました;
なんだかんだ、ぺぺろんのアンケートは 食満くんがものすごい強いんだなぁ…… 時期的にまだ珍しいんじゃないでしょうか、 彼の存在が定着し始め頃だから(失礼 「嫉妬」も更新直後からたくさん拍手をいただきました。 ありがたやーありがたやー
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