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六年生の遊びは、下級生に言わせれば
遊びのレベルで済まないほど過激だということである。
そして彼らは、その過激さゆえに多少の怪我を負うことも、
特になんとも思わない。
医務室へ現れ、当たり前にさぁ手当てせよとずいと
患部を突き出した友人の委員長組五人に、
保健委員長の善法寺伊作はせめてもとばかり、
ものすごく嫌そうな顔でため息をついてやった。

「ごめんね、たまたま居合わせたばっかりに、
 君にまで面倒かけることになっちゃって」
「いいのよ。私にも勉強になるしね」

保健委員長のお手並みをそばで見られるのだものと、
そう言って手当てを手伝うのは、
たまたま薬品調合について伊作に相談に来ていた
六年生のくのたまであった。
同学年であるため、彼らとも割と親しい娘である。
この娘に恋慕の情を抱いている者が多いことを、
今医務室を占領している六年生六人はよく知っている。
誰ひとりとしてこの娘を独占する権利を持ってはいないが、
他の誰かがこの娘にちょっかいを出そうとするのは
なんだか気に食わないという、身勝手であった。

「火傷は残るのよ、仙蔵」
「気をつけてはいるのだがな」
「楽しそうに言わないで。反省してるように聞こえないわ」

そりゃあ反省してないからさと、伊作が横から口を挟んだ。
保健委員長にとっては毎度のことであるらしい。
熱心に己の腕を手当てしてくれている同年の娘を、
仙蔵は至近距離からまじまじと見つめた。

この娘を落とすのは相当な難問という忍たまたちの噂だ。
何度となく男達から想いを告げられているはずだが、
すべて躊躇いなく断ってしまうという潔さ。
男に興味がないのではないかとすら言われているが、
それが本当なら男達には望ましいことではないから、
その話はあまり大っぴらに囁かれなくなった。
もうひとつ、卒業を控えた学年になって
初めて知ったことだったが、この娘は卒業後の進路を
家業を継ぐことと早くから決めていたらしく、
プロのくの一を目指すものとは違う授業を受けている。

(ならばもしや、単に経験がないだけか……?)

試す価値はありそうかと仙蔵は思った。
口元でにやと笑った仙蔵に文次郎がまず気がついた。
仙蔵はお構いなしで、怪我を負わなかったほうの手で
目の前の少女の顔を上げさせ、唐突に唇を合わせた。
周りの友人達五人があっという間に石になる。
彼らに構わず仙蔵は考えた。
さて、どう出るか、こいつ。

離れると、彼女はさすがに少し驚いた顔をしていた。
けれど、それだけだった。

「仙蔵。悪ふざけはだめよ。
 口付けなんてされても誤魔化されない」
「そうか。わかった。脅かした詫びだ。
 先三日ほどは大人しくしていると約束しよう」
「三日! 私との口付けは三日分程度の代償なの!」

憤慨する彼女を前に、仙蔵は可笑しそうにくすくすと笑った。

「お前、くの一にならないというのは惜しまれることだ。
 ああ勿体ない本当に勿体ない。
 もしやすると男など一口も知らんかと思った」
「嫌だ、まさか」

それこそ心外だと言いたげに彼女は頬を膨らませた。

「私たちを誰だと思っているの。
 確かにプロのくの一にはならないけれどね」

一拍おいて、彼女はふっと、実に愛らしい、
爛漫な笑みを浮かべて見せた。

「私たちは女なの──生まれて死ぬまで、女なのよ」

なんの害もない、天女の降臨かと思わされるような
その満面の笑みで、そんなセリフをさらりと吐くから。
背筋にぞっと寒気が走るのを感じ、
彼らは声ひとつもたてることができなかった。
仙蔵は軽い気持ちでこの娘にちょっかいを出したことを、
今少し後悔していた。






壮絶なヒロインだなあ……
仙様はなんだか夢になりづらい、です。
いや、誰を書いてもなんだか夢らしからぬのが
今やもうぺぺろんの特色か……
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