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喧嘩でもしたのかと聞かれた。

喧嘩じゃあない。
できるだけいつもどおりを装っていたつもりだった。
何も変わらない自分を。
けれど、妙なところであいつは鋭いから、
気付いてしまったんだろう。
それから、俺はずっと避けられ続けている。

俺の思惑を悟ってしまったということであるなら、
あいつが俺を避け続けていることには、
俺にとってはむず痒いような、……嬉しい、意味がある。
けれどこれを嬉しいと言いながらも、
俺は今抱いているこの思惑ゆえ、
あいつを追いかけて捕まえようとするならばそれは
矛盾した行動ということになってしまう。
もっと相応しい言葉を探すのならば、身勝手と。
本気を出して追えば捕まらないわけのない相手を
取り逃がし続けているのはただひとえに、
惜しいからだ。
それが俺の正直な気持ちであることを
もはや偽ることはすまい。
けれどそれでも俺は、あいつを追い、捕まえ、
言わなければと思い詰めている。
ただ距離が遠のき、繋がれた糸がほそくなりゆき、
知らないうちに ぷつん と切れてしまうかのような、
そんな終わり方になってしまうのはあまりにつらい、
あんまり愛しすぎてしまったあとだったから。



一体なにがあったのと聞かれた。

別に何かあったわけじゃあない。
私にも文次郎にも変わったことなんてなにもなかった。
なにもなかったけれど、でも、
普段はがさつなくせに文次郎の奴は、
妙なところで気遣いだの、さりげない優しさだのを
見せてくれてしまうものだから、気が付いてしまった。
それから、文次郎と会うのが恐くて、
私は彼から逃げ続けている。

文次郎はたぶん、
私が急に距離を置くようになった理由にも
気が付いてしまっているのだろう。
わかっていて先送りをし続けるなんて
愚かもいいところだとちゃんと自分でわかってはいる。
文次郎はいつまでもゆるゆると追ってくるだけだし、
一方の私は一生懸命に逃げおおせようと努力している。
そんな状態でけじめなど付くはずがないのだ。
だだをこねてみせるかわりに文次郎を避け始めた私を、
文次郎自身は複雑に思っているのだろう。
たまに目が合えば彼は申し訳なさそうな顔をするから、
私が今抱いているこの想いゆえ、
この堂々巡りに終着点が見えたそのときには、
私が彼によって傷ついてしまうだろうことを
彼は悟っているということになる。
自惚れじゃないのと言えるのならばいいのだけれど、
好きになってしまったのは本当なのだもの。
いつかはいつかやってくると知っているけれど、
今ざっくりと、繋がれた糸が切り落とされてしまうより、
その糸が細くほそくなっていっても、距離は遠くても、
どこかではまだ繋がっている、
せめてそれくらいでもお互いのあいだになにかが欲しいの。
今すぐ失うなんて、
そんな終わり方になってしまうにはあまりにつらい、
あんまり愛しすぎてしまったあとだったから。






■言い訳
別れ話を仕掛けようとしている文次郎と、
それを悟り・聞きたくなくて逃げ続けるヒロイン。
ひとつの現状を挟む、ふたつの感情。
お互い自分に妥協しているところがある。
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