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「本日の授業はここまで! えー、解散の前に」

土井師範が聞き慣れない言葉を続けたので、
やっと終わったとばかりに姿勢を崩し始めてしまった
五年は組の一同は不自然な格好でぴたりと固まった。

「来年度からの授業で使用する教科書の配布を行う。
 最上級生になって初めて受ける授業もあるからな、
 中身もよりいっそう難解になるし、
 今から目を通して把握しておくように」

ええー、とブーイングが上がる。
このあたりの反応は一年時から変わりやしないと、
土井師範は苦笑混じりにわずか肩を落とす。
目を瞠るほどの成長を遂げた生徒達だから、
けれど多少のことは許せてしまう。
担任の贔屓目というやつだろうかと
土井師範はぼんやり思った。
教室の隅に積まれた幾種類かの書籍も、
大事に使えよと手渡すのはこれが最後になる。
もう卒業まで一年と少しかと、感傷的にもなろうものだ。

六年生向け「忍たまの友」。
「文字と暗号の日本史」。
「近代戦乱史」。

「せんせー。
 六年にもなってこんなに教科の授業あるんスか」
「弱音なんて吐いていられなくなるぞ。
 私のおすすめは『近代戦乱史』かな。
 つい先日、新改訂がなされたばかりだ」
「おすすめって、文芸書じゃないんスから……」

はは、と土井師範は笑い、じゃあ今度こそ解散、
と場を締めくくって教室を出ていった。
手元に残された新しい教科書を見下ろし、
はーぁ、とあからさまに息をつく。
“おすすめ”らしい「近代戦乱史」の教科書を
ぱらりと開いてページを繰ってみる。

人の歴史には争いの歴史という側面もある。
忍というもの、またその前身といえる立場のものが
戦乱の陰に日向に暗躍し始めた頃から数え、
各々の戦においてなんという忍がどんな活躍をしたのか、
それがページ毎にまとめられている。
読んで字の如く忍んでこその忍者は、
活躍しても世の中に名を知られることはないから、
この教科書は忍術学園という場所ならではの
教材といえるだろう。
一流の忍を目指す忍たまたちにとり、
これは知られざる英雄の記録なのである。
数十年前の年号が記されたある戦乱の立役者に、
大川平次という名を見つけた。

「うーわー。学園長先生が載ってるぜ、これ」
「……本当はすごい人だったんだね……
 これを見ても全然そうは思えないけど」

それがまたある意味ではすごいと、隣で乱太郎が呟いた。
確かに、教科書の中の大川平次の活躍は、
どこぞの娯楽小説の一端かと思われるほどに派手で、
それがまた面白い。
今現在の学園長という人を知っていれば、
作り話なのではないかと疑いたくなるほどだ。
文芸書をすすめるようにすすめたくもなるものだし、
娯楽としても読めそうだと、
相変わらずの図書委員・きり丸は思った。

ぱらぱらと、読むでもなくページをすすめながら、
きり丸は近代というよりも
現代と呼ぶべき年号のページで手を止めた。
現代というより、ほとんどこれは……昨年の話である。
昨年というほども以前ではない。
つい、数か月前の話。

彼は真面目に、その文章を読み始めた。
そこに描かれた活躍、その人の名に、きり丸は息をのんだ。






■言い訳
そこで終わるか、というところで終わってみる。
個人的には「文字と暗号の日本史」が気になる。
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