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これは、本当にあった話なんだ。

ううん、あった、という言い方は

ちょっと違うかもしれない。

なんせ、つい昨日だって目撃者が出てる。

この学園の中で、今も起こっていることなんだよ。

ゆうれいが出るんだ。

決まって晴れの日の真夜中と聞いてる。

僕らは──生物委員は──委員会で世話をしている動物の

様子を見るのに、ときどき夜でも見回りに行くことがある。

ほとんどは先輩たちの仕事だけど、

手の足りないときは僕たちも一緒について行くんだ。

最初は孫次郎が見た。

ひゃっ て飛び上がって、倒れちゃったんだって。

一緒にいたのは竹谷先輩だったけど、

先輩は孫次郎が悲鳴を上げるまでは

動物たちのほうばかり見てて、気付かなかったって。

孫次郎に聞いた話だと、

そのゆうれいは若い女の人の姿をしてるらしい。

まっしろなんだって。

装束が白なのはお約束かもしれないけど、

髪も、肌も、月の下だと青みがかって見えるくらい、

透けて白く見えるって。

生物委員の飼育小屋のあたりと、

医務室の庭──保健委員が薬草を育ててる──あそこ、

そのあいだの原っぱにぼう……っと、立っていたんだって。

風が吹いたら、糸みたいにふわっと、髪がなびいて。

ゆうれいだ って思ったらとても恐いのに、

ものすごくきれいで、とても悲しく見えるんだって。

僕たちはまだ、見たことがないけど。

いいや、夜中の当番は、

それ以来先輩方が全部やることになっちゃった。

今は一年生全員、朝か夕方の世話だけやってる。

……この話をすると、先輩方は嫌そうな顔をするんだ。

竹谷先輩なんか、しまいには怒り出すんだもの。

ほんとだよ。

いつも笑ってる先輩がいきなり厳しい顔をすると、

ほんとに恐い。

先輩方はもしかしたら、

あのゆうれいのことを知っているのかな。

昔はどんな人で、どんな心残りがあるのかとか。

だってね、先輩方も、

そのゆうれいを何度か見ているみたいなんだ。

孫次郎が見て騒ぎになっちゃったあともだよ。

でも、先輩達はなにも言わない。

なにもなかったみたいに、いつもどおりにしてる。

あのゆうれいにはきっと、なにか秘密があるんだね。

もしかしたら、昔、この学園のくの一だったのかも。

夜な夜なあらわれて、

僕たちになにかを伝えようとして……



「学園長先生の元ガールフレンドの幽霊だったりして!」

誰かの声がいかにもわざとらしく、明るく話を遮った。
一拍の間をおいて、場の皆が失笑に近い笑いを漏らした。

「やだなぁ! 変なこと言うなよ」
「あーあ、せっかくいい雰囲気だったのに」

学級委員長の部屋に集まって、
一年は組の一同は持ち寄った恐い話を
披露し合っていたところだった。
夏の夜でもないのに物好きなことだと皆思っていたが、
誰もそれを口に出そうとはしなかった。
順番が巡ってきて、委員会の友達がゆうれいを見たと、
自分たちの現実とリンクする話を披露したのは虎若だった。
話の結末を掻き乱されたが、虎若は気を悪くせずに
まぁ、きっと、見間違いかもねと笑っている。

三治郎は見てないの、と、
同じ生物委員の三治郎に誰かが問うた。
ずっと虎若の話に耳を傾けているばかりだった
三治郎は、聞かれて初めて気がついたというように
え、と顔を上げる。

「虎若の話だよ」
「若い女の人のゆうれいの」
「ああ……あれ」

三治郎は不可解だと言いたげに首を傾げ、

「あれ……全然ゆうれいっぽくないんだもの」

呟くように一言、きれいさっぱり言いきった。
三治郎の父上は山伏で、
三治郎も長い休みのあいだは山伏の修行をしている。
独自の見解を持っているようなところがあるのは、
異界を覗き見るその修行の経験のためだろうかと、
一年は組の皆はぼんやり思うことがある。

「こ……こわいは なしだっ たね!」

ぎこちなく誰かが言い、皆が力無く笑った。
なにが恐かったと言って、話の中身ではない。
三治郎が付け加えたその一言の効果が、
話の現実味を増すことに貢献してしまったためである。
急に肌寒さを覚えて、皆はあわあわと立ち上がり、
自室へと引き取っていった。

空にはまるい月がかかっている。
こんな夜、学園の外れのあの原っぱに、
ゆうれいはあらわれて悲しげに立ち尽くすのかもしれない。






■言い訳
奥の方の意味を邪推してください(笑
タイトル「ゆうれい談」は山岸凉子さんのお作から。

先日、持病の悪化により祖母が入院したのですが、
その直前に祖母はなんとも思わせぶりな
夢を見たと申しました。
聞けば、祖母は見知らぬ赤ん坊を背負って
どこやらへ行かねばならず、
赤ん坊を背負って必死で歩き続けたそうですが、
夢にありがちな唐突な場面転換を経ると
その赤ん坊が氷づけになっていたというのです。
あの赤ちゃんはもう死んでいるから連れていけない、
でも自分は行かなくちゃとただ思う祖母はしかし、
その氷をまた背負うのだそうですが、
それが祖母の背でいつの間にか人間の死体をくるむ
バッグ? に変わってしまっており、
自分の身の丈よりも大きなそのバッグを引きずるように
必死で目指す場所に向かって歩いたそうです。
その背に負っているバッグの中にいるのは、
死んだ祖父(=祖母の夫)であると
祖母にはわかったらしいのですが、
氷の山にぶちあたり、この山を越えれば目的地と思って
山を登ろうとがんばっても、
地面を引きずった状態で運んできた祖父の足が
登るのを邪魔して何度となく滑り降りてしまい、
山を越えることはできなかったのだそうです。

これを聞いてまずは話の内容に戦慄を覚えました。
祖父が祖母のあの世行きを
引き止めてくれたように思えてなりません。
なりませんが、今年三回忌を迎える祖父のことを、
祖母がまだ振り切れていないように思われるのも
恐かったのです。
長年連れ添った夫を忘れないのはそりゃそうだ、ですが、
もっと気持ちの奥深くで根が絡むように祖母が祖父に
縋ってしまっていたら、祖母があの世に近いところに
立ち続けながら生きているのではないかと思われて
無性に恐かったのです。

そして、聞きながら私は
山岸凉子さんの絵でこの話を想像してしまい
自分の想像で気持ちに拍車をかけてしまって、
それはそれはもう、大変恐ろしゅうございました。
母には自業自得だと言われました。
まぁね……
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