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御注意
■「宵のみぞ知る」のヒロインと食満くんの会話ですが、
 半回転ほどパラレルが入っていて、
 この二人は恋人同士ではありません。
 食満くんには別に想い人がいます。
 キャラクタだけ採用したお友達話と思ってください。

■ヒロインのデフォルト名がそのまま出てきます。
 変換できませんのでダメな方は回避してください。

※絵板でお礼をしようとしたら
 とんでもなく時間がかかってかえって無礼と悟った。
 ばら日の御礼申し上げます!







委員会を終えて、用具倉庫を戸締まりして、
鍵を返しに行った帰りに潮江文次郎と遭遇して、
いつもどおりにやりあって、
決着が付く前に伊作が横やりを入れてきたので
中断させられるハメになり、
横やりついでに巻き込まれ一発きついのをあびて
伸びてしまった伊作を医務室へ引きずっていって、
そのついでに新野先生に小言を食らって、
食堂に着いたら中はがらんとすいていた。
目当ての定食は売り切れだ。
今日の占いはきっと、
牡羊座は12位、A型は4位だったんだろう。
腹は立つが、最近慣れた。

食満留三郎ははぁ、とため息をつくと、
残った定食をオーダして出来上がりを待った。
くるりと食堂を見渡すと、
ひとりだけまだ席についているひとがある。
もも色の忍装束はくの一教室の生徒の証。
それも、この六年間を唯一生き残ったという
稀少価値付きの最上級生、高槻透子だ。

「よ。高槻も今夕飯なのか」
「あら、食満くん。あなたも」

彼女は今気がついたかのように目を上げた。
忍装束をまとっていれば一見のところは無害そうだが、
その目線の艶めかしさひとつとっても
そこいらの十五歳とこの娘を同列には数えられない。
芯の芯からすでにくの一である透子とは、
普段ならあまり関わらないように気をつけたいところだが、
最近になって意外と話せる奴らしいことがわかってきた。
彼女の座る席の向かいに、留三郎は腰を降ろした。

「大変ね、用具委員長さん」
「ああ、まあ、なあ……」

本当のところ、作業にもやっと慣れるかどうかの一年生は
優秀な三年生が面倒を見てくれているため、
留三郎自身の苦労は周りが思うほど多くない。
今日の“大変”は、
どう考えても委員会後の悶着の嵐のほうだ。

「珍しい」
「なにが?」
「髪」

留三郎は自分の頭をちょいちょいと指さして見せた。

「いつもおろしてなかったっけ」
「ええ。よく気がついたわね」
「そりゃあ、忍の端くれだし」

色仕掛けに髪が役立つと考えている透子は、
普段から頭巾をせず、髪を結わずにおろしている。
それが、今日は後ろですっきりとひとつに結い、
そこに花まで飾っているという有様。

「……四年の髪結いの餌食にでも?」
「四年は四年だけれど、火薬委員じゃなかったわね」
「へぇ」
「今日はね、大好きな人や世話になった人に、
 ばらの花を贈る日なのですってよ」
「……脈絡ない話だな」
「あなたはばらの花をもらわなかったの?」
「なにもないよ。潮江の野郎から一発食らったけど」
「野蛮」

一言で切り捨て、透子は箸を置くと茶をひとくち含んだ。

「そんな日だからって、うちの後輩のひとりがね……
 ばらの花じゃあないけれど、冠を編んでくれたのよ。
 でもずっと頭に乗せているわけにはいかなくて、
 せめて──ね」

結った髪に花冠をとおして飾ったのだという。
素朴な花飾りはたんぽぽ、白詰草、とりどりの野花。
鋭い印象をなかなか拭えない透子だが、
髪をまとめてやさしい表情の飾りをさしただけで、
ずいぶん柔和な面差しに見える。
それにほら、と、透子は懐から紙挟みを取りだし、
上等な懐紙をいちまい取り出した。
丁寧にふたつ折りにされたそれを、
透子は開いて留三郎に中を示す。

「はぁー……四つ葉か」
「今朝見つけたんですって、
 せっかくなのに惜しげもなく」
「……愛されてるんだな、後輩に」
「そうかしら」

そこは肯定してやれと、留三郎は苦笑いである。
透子もクスリと笑いを漏らす。

「とっても嬉しかったわ。
 幸福な気持ちを例えてばら色、なんて言うじゃない。
 雲の上を歩くような、とかね。
 だとしたら私は今ばら色の雲の上を歩いているのよ。
 いい気分ね」
「……その後輩もなかなかやるな。
 高槻にそういう顔をさせるとは」
「あら、私だっていつも取り繕っているわけではないわ」
「そうか?」
「そうよ」

きっと先輩の教育がいいのね、と、
透子はなにか企んでいるような視線を
留三郎に寄越した。

「先輩って、そりゃ、高槻だろ」
「私じゃないほうの先輩よ」

透子はすっと食事の盆をわきによけ、
忍び寄るようにテーブルの上に頬杖をついた。
声をひそめ、内緒話でもするように顔を寄せてくる。
こうなるとこいつは苦手だと留三郎は思ったが、
視線が合ってしまえば逃げられる気がしなかった。

「可愛い可愛い四年生のくのたまちゃんは言いました、
 大好きな人や世話になった人にばらの花を贈る日と。
 ねぇ、“あなたはばらの花をもらわなかったの”、
 用具委員長の食満留三郎先輩?」

途端、ひとりのくのたま後輩の顔が
ぱっと脳裏に閃いた。
くの一四年生の用具委員で、
素朴な野の花を慈しみ想いを込めて編み上げる、
そんな姿がよく似合いそうな純粋な娘。
思い当たると、透子が暗に仄めかしていることの意味が
どっと留三郎の思考に迫り、かぁっと頬が火照り始める。
してやったりと言いたげに、透子はにっこり微笑んだ。

「わかりやすい人、食満くんたら。
 残念ね、あの子の愛は今日は私のものよ」
「……てめ……言うに事欠いて……」

今にも吼えかかりそうになりながらも、
留三郎は茹で上がったように真っ赤になっていて、
どうにも勢いに欠けて見えた。

「まったくもどかしいったら。
 立花君たちの気持ちもわかるというものよ」
「なんでそこで仙蔵が出てくンだよ……」
「わかっているくせに」

食事の盆を手に、透子は満足そうに立ち上がった。

「ま・あの子の先輩という意味では私だって同じよね。
 あなたがあんまり歯切れのよろしくない様子なら、
 私があの子にけしかけてしまうかもしれないわよ。
 どう? 色の極意のフルコースなんて?」
「全力で遠慮する!!」
「まぁ つれないひと」

言いながらも楽しそうに透子は背を向け、
盆を下げると食堂を出ていってしまった。
後に残された留三郎はひとり、
頬に集まる熱を持てあまし、
席にはひとりでいるはずの食堂で
無数の視線を浴びているような居心地の悪さに
必死で耐えたのだった。
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