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伊作は怒っている。
雑渡さんはのらくらしている。
ゲド戦記を見てぼんやり発想しただけで
物語というレベルにまで練り上がってはいない、
ただの会話。

 * * *

あなたはご自分の身体だとか、命だとかというものを、
粗末に考えすぎていらっしゃるのではありませんか。

そう思う?

そう思わせるのです、あなたが。
任務のためなら命を捨てる、は本分ではないでしょう。
任務を果たすべく生き延びるのが忍でしょう。

仰せの通り。

まさか永遠なんてものを信じておいでだなどと
仰ったりはしますまいね、雑渡さん?
まさかあなたが。
あなたのような人が。

そこを念押して言う理由を問いつめたいところだが、
まあ、空想上にならね、あってもいいのじゃない?
永遠とかなんとかもさ。

ご冗談を。
あなたは現実に目の前に起きていることしか、
その右の目でご覧になるすべてしか信じないでしょうに。
空想だなんて笑ってしまいますよ、
夢も見ないような人でしょうに。

夢くらい見るさ。
私も人の子だし?

永遠というものは。
人間の器にはおさまりきらない類のものです。
空想や夢ですら許容しきれないほど遠すぎるから、
永遠なんて名前をつけて理解したつもりになる
くらいのことしか人間にはできないのでしょう。
あなたが人の子なら、
やはりあなたにも永遠なんてものは訪れはしません。
その命の限り。
その身体の限りのこと。
儚くなれば終わりです。

そうねぇ。
生きることは有限だろう。
死んだら永遠が手に入ると思う?

死んで永遠を手に入れる頃には、
なにもかもが己の意思に関わりなくなっているでしょう。
あなたは永遠を求めていらっしゃるのですか。

そういうつもりでもないのだけどねぇ。
ただなんとなく、これまでもこういう、
君に言わせれば無理無茶無謀の類を散々やらかしてきて、
それでもなんとなく、生きてきちゃってるのね。
全身こんなに焼け焦げてもほら私生きているわけで、
もうこれなんか一度死んだも同然の怪我だったのだよ、
そんなもの越えてまだ命があるという事実を
己自身が体現してしまっているとね、
もうなにやってもちょっとやそっとじゃ死なないって
思っちゃうわけ、わかる、この感じ?
油断かもしれないけれどねぇ。

いつかあなた自身のその在りようが、
きっとあなたを殺すでしょう。

そうね そうかもしれない。
では逆に聞くけれど伊作くん、

なんでしょう。

君のやっていることはいったい何?
君が気づかなければ、手を貸さなければ、助けなければ、
死んで永遠に触れただろう人間は大勢いるに違いあるまい、
それは君が永遠を否定するがゆえのことなの?
誰も死なせてやらないとか思ってやってるの?
ねぇ生きることは有限で永遠ではないと言ったけれども、
生き長らえていくことは永遠に近づくことではないだろうか?
そう思えば君は永遠というものを小馬鹿にしながら
より多くの人を長らえさせようと努力していることにならないか?

人の生きる限り・
その身の上に永遠なんてものは来やしませんよ。
限られている内でより長く生きてやろうと藻掻くことが
せいぜい人間の器におさまる程度の抵抗です。
ある分を全うしようとする。
よろしいじゃありませんか。

……まったくもってよろしいね。

おや降参ですか。
お珍しい、あなたが言い負けることもあるのですね。

勝負をしていたつもりはないが
腑に落ちてしまったので
これ以上君に突きかかる言葉は特に出そうにないよ。

そうですか。
折良く包帯も巻き終わりました。

うん ありがとう いい具合だ。

雑渡さん。

はい?

あなたの命にも身体にも限りがあります。
相当の無理無茶を重ねても死なないとお思いかもしれない。
けれどその限りの境界線は
案外とすぐそばにあるのかもしれませんよ。
それをどうぞお忘れなく。
そこを踏み越えたあとの人間は僕は見向きしませんよ。

おや冷たいね。
骨くらい拾ってくれてもいいだろうに。

永遠になってしまった人間を
おさめることがかなうほどの度量を、
僕は持ち合わせませんので。

 * * *

小難しくなりました。
意味のあるようで意味のないような会話を延々、
応酬してみる伊作と雑渡さん。
恐らく彼らの感覚として、会話の中身に価値はない。
喉元に狙いを定めて刃を突きつけるような、
会話のスリルとテンポを楽しんでいる、あうんの呼吸。
 
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のねむ
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