僕は少し、せかせかして、急ぎ足で、 図書室へ向かっていた。 当番は当番だから、なのだけれど、 ちょっと胸がむかむかしている。
いやなことがあったのだ。 とてもいやなことがあったのだ。 僕自身に起きた話じゃないのだけれど、 むっとしたのは確かだった。
図書室へ入ると、 先に来ていたきり丸に挨拶を返すのもそこそこに、 僕は奥の棚へとずんずん歩いていった。 後ろできり丸が呆けたように、
どうしちゃったんスか、不破先輩、
と、呟いたのが聞こえた。 そうだよね。 気を悪くしていないかな。 ごめんね、きり丸。
でもちょっと、いまはそれどころじゃなかったし、 気が済んでも、話せる事情じゃなさそうだ。 よく考えたらくだらないことなのだ。 僕だって、自分でばかばかしいと思うほど。 だけど気になるじゃないか。
奥の棚のほうへ入っていき、 記憶を頼りにさっと本の山に目を走らせる。 想像したとおりの場所に、目的のものを見つける。 これか。 僕はその本を棚から抜き出して、 ばらばらと、ページを繰った。
このやろ、おまえか。 僕の大事な彼女を泣かせたのは。
■言い訳 毎年、新潮社と集英社と角川書店で、 文庫の夏の百冊っていうの、やるじゃないですか。
いつだったかのあの時期、 角川だったと思うんですけども、 販促用に届いていた栞に、
彼女を泣かせたのはこの本か。
みたいな、キャッチコピーが入っていたんですよ。 やー、秀逸! 気に入ってたんですけど、正確なところがわからない。 調べてもみたんですけど。 書店ではすでに、百冊の準備、始まっています。 文庫担当者の血と汗の結晶ともいうべき棚。 本屋にお越しの際は、ぜひ眺めてみてくださいな。
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