せっかく土・日でお越しの方がたくさんいらっしゃるから
小話書いてみます。 さっき思いついたおはなし。 食満くんと『宵のみぞ知る』のヒロインで 変わりばえしなくてごめんなさい。 甘くなんかありませんごめんなさい。 殺伐夢がお得意のサイトでございます…… デフォルト名出さないように努めます。 夏の夜のことだ。 昨夜、こんな夢を見たの、と、 腕の中で微睡んでいる恋人が呟いた。 どんな、と問い返してみる。 ええ、と気だるげに一拍置いて、恋人は語り出した。 ──私はくの一なんかじゃなくただの町娘で、 ──あなたは忍……という夢よ。 ──プロ忍? ──そう。 まんざらでもない。 夢に見てもらえるほどとは、という意味でも。 恋人は目を閉じたまま、心地よさそうに身じろぎをし、続けた。 ──私は忍のすべなどなにひとつ知らずに育った娘で── ──あなたは任務を帯びてやって来たのかしら…… ──私と出会って、互いに恋に落ちるの。 ──でも、立場が違うからうまくいかないの…… そういう夢よ、と恋人は話を結んだ。 おい、それで終わりか、悲恋じゃねぇか。 まんざらでもないと思ったのを今すでに撤回したい。 たかだか夢に対して、俺は反抗を試みた。 ──なんでうまくいかなかったんだろうな? どんな試練が、困難があったというのか。 現実の俺に対処できる問題ならば そんな夢など相殺してしまえるだろう、そう思ったのだが。 ──あなたが身を引いたのよ── ──なにも知らない私を巻き込みたくないからと。 ぐうの音も出ない。 愛ゆえってやつか、即座に反抗するわけにはいかない意見だ。 夢のくせになんてわきまえていやがるんだ。 まあ、夢とはいってもよく考えれば・ 恋人の思考回路からあぶれた光景の寄せ集めだ。 一流のくの一予備軍という確固たる立ち位置を保つこの娘なら、 そんな悲しい夢も見てもおかしくないかもしれない。 いつもいつでも、 任務と自分の内側の人間らしい部分とを天秤にかけ、 任務を選び取ることを叩き込まれている 俺やお前や悪友たち、ならば。 言葉に詰まった俺の内心を悟ったのか、 うとうとしながらずっと目を閉じたままだった恋人が、 くすくす笑いながらゆっくりと目を開けた。 いたずらっぽい視線が頬のあたりに刺さる。 ──どうして連れて逃げてくれなかったの? ──いや、……俺に言われても。 その選択をしたのはお前の夢の中の俺であって。 先程は夢の結末を現実の自分がぶち壊そうなどと思ったのに、 場合が変わればそんなこと都合よく忘れて棚上げしてしまう、 自分に対して少々後ろめたい。 ──任務のときは構わないけれど、 ──ちゃんと連れて逃げてね 現実にそんなことが起きたら、という例え話を恋人はする。 連れて逃げてね、なんて。 ぼんやりと空想を巡らせてみる。 禁を破る、追っ手がかかる。 それでもこの手は決して離してなるかと誓う。 本当にそんなことが起きたら俺は、たぶん…… 命懸けでこいつを守ろうとするんだろう。 卒業したのち、どんなあるじに仕えるものかもわかりはしないが、 ひざを折るのなら誰よりもこいつの前に。 手をとるのなら誰よりもこの娘の手を。 誓うのなら、この恋人のために。 ──任務中でも連れて逃げそうだ 聞いて、恋人はおかしそうに腕の中で笑っている。 ふと、 そのとき思い当たったのだ。 これが限りなく本音に近い言葉だということに。 そんなことが本当に現実に起きたとき、 任務と恋人を天秤にかけて恋人を選び取るかどうかは、 実のところはわからないが。 それでも俺は心底からそうしたいと願うに違いないのだ。 任務なんか投げ捨ててがむしゃらにこいつを守りたいと。 思っても、そうすることができない、かもしれないが。 それでも嘘偽りなく俺はそう思い、そう願うのだ。 胸を張るべきか惜しむべきかははかりかねるが、 それには確信があった。 ──忍者の三禁か…… ──なんの話? ──色に溺れるなって ──なにも仕掛けていないわ ──うん……俺の問題なの 本当に恐いのは、 仕掛けられた罠にはめられることではなくて。 気づかずにその手中に入り込んでしまうことではなくて。 罠も打算もとうにうち捨ててしまったこいつに対して、 俺が自ら傾倒しているという事実だ。 誰もなにも仕掛けていないのに、 誰かの策にはまったかのような選択肢を 俺がみずから選んでしまおうとする、 本気でそうしようと思ってしまう、 そう思う自分を疑う心地が起きてこない──それが恐いのだ。 押し黙った俺の思考が悪循環にはまっていることを、 恋人は鋭く察知したらしい。 俺の腕にくるまったままで器用に身を起こして、 ──言ったでしょう 唇を重ねる。 思考回路が一瞬、止まる。 ──悪い夢だったのよ 忘れたいわ。 それだけ言って、 恋人はまたもぞもぞと俺の腕の中におさまった。 夢。 悪い夢だ。 現実には違う未来が待っているだろう。 卒業するときには一度別れると決めたばかりだ。 生きていれば、もう一度会える。 そのときにはもう、 手を離すことなんて考えなくてもいいはずだ。 ──町娘としてあなたの前にいられたほうがよかったかしら? 珍しく、俺の出方をうかがうようなことを言う。 ──いや いいんだ 町娘でもくの一でも、もっと別の立場でも、 出会ったら惹かれずにいられなかったのではないかと…… そんな気がしているから。 悪い夢は明け方すでに醒めた。 ただ俺は現実を今日も明日も生きていく。 恋人の歩む道とときどきは交錯することを繰り返しながら。 俺はきっと、 今日初めて 恐い ということを知ったのだ。 愛おしくて離れがたいひとのそばに、ただひたすらにいたために。 |
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