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おはなしは続きのリンクにたたんでおります。
また引っ込みモードに突入です……
パソコンに頻繁に触ることができなくなりますが;
文章遊び用のノートパソコンで
ストックづくりに精を出したいと思います。

置きみやげと申しますか
『宵のみぞ知る』の番外二文字題、『好き』です。
ヒロイン名を出さずに“彼女”と呼ばわって
全編むりやり押し通しました。
食満くんがおみやげをくれます。




ヒロイン名を出さず“彼女”で押し通した続き
実経験が下敷きになったおはなしでした。
昔、ジャズダンスをやっておりまして。
舞台のリハーサルか何かを見ていた父がぼそりと、
「うまい人は手を抜いててもうまいんだよね」と申しました。
言われて、当時私は深いことを考えずに
ああそうだよねぇとか答えた気がするのですが。

専門家の目を誤魔化し通す、というのも困難ですが、
専門知識など持ち合わせない普通の人の目を
誤魔化し通すというのも別の観点でとても困難なものです。
誤魔化すという言葉があまりよろしくないのですが;
お客さんのおおよそは専門家ではないはずですから、
踊る人、書く人、描く人、としての私は
専門家よりかは漠然と大勢のいろいろなお客さん、
のためを思って頑張るべきところ、です。

ところで
よく言われるのが行動的な表現について、
つまり自分から動いて見せよう、という行為についての、
たとえば腕や技術の高さ、
そうした力についてだと思うのですが、
その行動的な表現を受け取る力というものが
絶対にあると思うのです。
受動的であるがゆえ、
あまり目立たない力かもしれないと思うのですが、
発信されたものを受け取って解釈する、というお力に
ぺぺろんがどれほど助けられておりますことか!

ぺぺろんの作品をよきものと思ってくださる方が
もしもいらしたとしたら、
それはその方が読んでくださったこと、
受け取ってくださったこと、
それら事実とそのお力によるものに他なりません。
ありがとうございます。
今回の更新も、お楽しみいただけていればよいのですが。
※現代版で 大学生で
 三郎の一人称が 俺 だったりします
 口調もそれなりに砕け気味です
 本当は 私 なんですよねぇ三郎さん……
 なぜか 俺 という印象が強い……




だから少しだけ無理して笑う
海境奇聞編

数年前、夜の巡るたびになんだか妙に目がさえて、
眠れないままただじっと横たわって
海の波の音に耳をすませている時期があった。
館の中はしんと静まり返っているのに、
その外から遠く、寄せて返しての波の音は
片時たりとも絶えることなく続いている。
いつもは誰かが必ず目を光らせていて、
私が海へふらふらと近寄ってゆくことにいい顔をせず、
ろくろく足首まで水にひたしもしないうちに
館の奥へと引きずり戻されてしまう。
その理由を、海の神が私を連れ去らぬようにと
誰かが言っていた気がするけれど、
同じ連れ去られるということならば
私は一度海の深くへ沈んでいってみたいと願ってしまう。
水軍の皆が私を想ってくれていることは
それでもよくよくわかるから、
そんなことを口に出して言うことはできないけれど。

──どうした

水練の地位を確固たるものとした舳丸も、
ときどきは海の見張りの番につく。
数年が経っていま、眠れない夜にひとりでいるときは、
ときどきこうして舳丸を訪ねに館の中を歩いてみたりする。

──眠れないの

舳丸は特に答えずに、海のほうへと視線を戻してしまった。
自分から私に構ってくれることなんて
ほとんどないみたいな人だけれど、
そばにいることを咎められたことは一度だってないし
静かに考えごとにふけっているあいだは
話しかけずに適当に放っておいてくれることが
ありがたくも思えてしまう。
とても、勝手な話だけれど。

寄せて、返して、途切れない、波の音。
黙ってそばにいさせてくれるだけの人。
私が自分からなにもせずにいれば、
距離も関係もなにひとつ変わらないものたち。
近くもなく遠くもなく、
けれど揺らがずにただそこにあることの安心。
深く沈んでみたいと願うのは、
つまり、そういうことなのかもしれない。

目を閉じてじっと波の音を聞いていると、
うとうととやっと意識がかすれ始める。
舳丸はそれに気づいて、寒くないように、
羽織りものを肩に打ちかけてくれた。
実は面倒見もよくて、やさしいところもある人。

眠りに落ちるその寸前に思い返す。
数年前の真夜中、眠れずに海へ走り出した私を、
連れ戻しに来たのがこの人だったということ。
一緒に帰ってくることを、私が自分で選んだということ。
つまり、それは……
もう少しでその答えがわかりそうなのに、
意識はぼんやり薄れていった。

こうして何年も続いてきてしまったから。
私たちは今もまだ、曖昧にただ一緒にいるだけだ。




つづき
われ恋ひめやも編

利吉さんが訪ねていらしたのは、
学園中が寝静まった真夜中のこと。
門など当然閉まっているから、
塀を越えてやって来たのだと気まずそうに言い訳をして。
慌てて部屋へお招きしてみたはいいけれど
(だって他のどこへお通しするわけにもいかなかったから)、
なんと気まずい雰囲気なのでしょう。
お互い何か言おうとしてはうまく言い出せずに口をつぐんで、
空回り、空回り。
そうして結局、いつもの当たり障りのない会話が巡るばかり。

──どうなすったのです、お仕事は?
──まだ途中です
──いまはこのお近くでつとめていらっしゃるの?
──近い、というほどでは……

利吉さんは言いづらそうにそこで言葉を切って。

──ちょっと、顔が見たくなっただけです

言葉を失ってしまったのは、今度は私のほう。
それを悪い反応だと思われたのでしょう、
利吉さんは慌てて弁明を始めました。

──いや、あの、別に妙な気を起こしたわけでは、
──つまり、……すぐ、帰るつもりで。
──迎え入れてなどもらえないつもりで。

そもそも、お部屋に招き入れられたこと自体が
想定外だったようです。
胸の奥にじわりと、甘い蜜がにじみました。
甘さも過ぎれば、少々苦いというほどに。

──すぐお帰りになるのですか?
──え、いや、その、
──お泊まりになっては?

妙な気を起こしてなどない、というお言葉に、
少しずるい乗り方をして。
ときどきは私だって、
そんな計算をしてみたくもなるのです。
あまり急に距離が近くなるのも怖いけれど、
もう少し一緒にいたいと思ってしまうのも嘘ではないから。
私のそういう都合のいい考えを、
利吉さんは悟ってわかっておいでだったでしょう。
困った顔をなさって、
ずるい人だ、なんて言われてしまいました。

──では、少し、だけ。

あなたが眠ってしまうまで。
そんなことを言われたら、
朝までだってずっと起きていようかしら……なんて、
ついつい思ってしまいます。
言ったらきっと利吉さんは笑っておしまいになるから、
言わずに黙っておくけれど。
二人きりでいる狭いひと部屋に、
あたたかで幸福な空気が満ち足りていきました。
桜舞い散る、春の夜のこと。




病め月編と宵編
 
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