俺の言っていることが嘘だったことがあるか? ないだろ? 本当のことだろ? 人は自惚れということだってあるけど、 そうじゃないだろ? 俺は俺自身が優れているってことを、 よく知っているだけなんだ。 謙虚が美しいとは、俺はまったく思わないね。 ある才能なら見せればいいだけの話だろ? 妬む奴は、暇人なんだ。 そうは思ったことないか? お前は女で、くの一で、俺とは多少は違うけれど、 俺と同じ人種のはずだ。 自分に気が付いている人間のはずだ。 だからお前も、自分を生かす道をちゃんと心得ている。 先輩よりも出来る奴だとか、お前もよく言われるだろ? そういう人間は、意外といないんだ。 俺もお前も、たった1パーセントの人種ってやつ。 他の99パーセントを見下しているつもりではまったくないさ。 でも、俺は俺として普通にしていても 皆の上をいってしまうことがあるんだ。 俺には出来て当たり前のことを、 皆はしばらく努力しなければ出来なかったりする。 それで俺に非はないだろ、でも皆は俺を妬んだりする。 ときどき不安になる。 だからわざと凡ミスしてみたり、小さい算術間違えてみたり、 本音ではばからしくて絶対言わないような冗談を 言って笑って、道化を演じたりしてみせる。 そうしたら皆は、 意外と鉢屋三郎も普通っぽいんだなと思ってくれる。 あんまり人にはこの話をしないけど、 白い目で見られるしな、 でもお前ならわかってくれるだろ? お前は俺ほど、99パーセントに馴染む努力が 出来ないたちらしいから、ハブられて寂しいだろうな。 そうだ、俺達は飛び抜けた1パーセントであるがゆえに ときどきとても孤独だ。 でも俺とお前だったら、同じ人種だ、 わかり合えるはずじゃないか。 結束してどうしようってことじゃない。 ……さっきも言ったが、 俺は俺が間違っていないことを知っているよ。 俺達はまわり皆よりもあらゆる点で優れて見えるんだ。 それは真実だ。 逆の言い方をすれば、皆は俺達よりもレベルが低いんだ。 それを口に出しては言わないけど、でも、 俺達の頭はそれをちゃんと知っている。 自分よりも下の人間に認めてもらっても、 俺はあまり意味を感じることが出来なかったりするんだ。 だからお前を見つけたときは嬉しかったよ。 やっと張り合いのある評価が聞けると思った。 お前なら俺を認めてくれるだろうと思ったんだ。 お前も同じことを考えただろ? 俺はお前を認めてるよ、お前の実力は本当に本物だ。 俺が言うなら信用できるだろ? ちゃんと素顔を見せて言ってやろうか? 周りはいろいろ俺に名を付けたがるけどな、 千の顔を持つとか何とか、 数はともかくそれも間違っちゃいないけど、 化けた顔では言葉まで化けるとお前は思うかもしれないな。 俺は俺自身の考えでそう言うんだぜ。 お前は優秀なくの一になるよ。なぁ。
三郎がひとり語り尽くしているのを、 彼女はじっと耳を傾けて聞いていた。 彼の声が途切れたところで、彼女は口を開いた。
「三郎が他人に化ける才能というものを 自覚したというのは、なんだか皮肉のようね」
三郎はわずかに眉根を寄せた。 彼は今、不破雷蔵の顔を借りているが、 雷蔵は普段そのような表情をつくることはない。 雷蔵の顔を真似ていても三郎は三郎であると、 彼女は思った。
「選べるものがたくさんあって、 それをすべてこなせるというのはよいことのようね。 けれどあなた、選ぶことが出来るの、たったひとつを?」
三郎は言葉を失った。
「あなたの言うことはよくわかるわ、 私も同じ人種というのは本当のようね。 でも、私は私自身が持っている、人より優れたその資質を、 ときどきはすっかり無駄に使ってしまおうと思っているの。 それで喜んでくれる人がいることがわかってね。 それがとても、嬉しかったのよ」
しかし、三郎のほうは彼女の言っていることを よく理解できないようだった。 彼女は笑って立ち上がった。
「1も99も、同じ人間だわ。 世界を分ける必要はないってことがわかったの」
頭の上にはてなマークを飛ばす三郎を置いて、 彼女はさっさと行ってしまった。 取り残された彼は、彼女の言葉を噛みしめ、考えた。 考え続ける彼のそばに、 いつものように友人達が寄ってくる。 言葉を交わすごとに、思考は薄れていった。 しかし三郎は、そうして忘れかけたときにやっと、 彼女の言葉がわかったような気持ちになった。
俺の言い分だけで判じるなら、こいつら皆、 その他大勢の99パーセントってことになるんだな。 そんなわけがないって、 俺自身がいちばんわかってるのに。
誰もわかってくれないと、そう思っている自分こそが、 周りとのあいだに壁をつくっているのかもしれない。 三郎は己の真実をまたひとつ見つけたのだった。
■言い訳 三郎……どう読んでも恋の物語ではない orz 投票くださった方、ありがとうございます。 気になる子の前で調子に乗ってしまった三郎といったところ。 調子に乗ってしまったというか、 これはヤバイ乗りだと思いながらも 止まらなかったのかもしれない。 彼はところにより天才と呼ばれているそうですが、 私自身が今のところ、天才という言葉について 納得のいく解釈を見出せていないのです。
ファンの方ならそりゃあわかるのでしょう。 その裏付けともいうべきタイトルでした。 ちなみに私は、ファンというわけではない。 画師が好きだから手に取ったというくちでして……
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