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本当はハチ月のうちにやっておきたかった、小話。
話というほどの転がり方はしていません。
現代版の五年生、一応竹谷が目立つかな、です。
五年生の雰囲気をつかむ練習でした。

ヒロインのお名前はデフォルト名の
高槻透子たかつき・とおこ)」をまた使っています。

かみせんの「夏のかけら」という曲を思い出します……
ひらがなで書くとおせんべいみたい。




 * * *

うだるような、とはまさにこのことに違いない。
口を開けば暑い、としか出てこない。
眠れぬ熱帯夜の続く夏。
昼であればむろん厳しさを増す猛暑である。
夏休みだというのに、透子は今日も学校にいた。
冷房のきかない教室には他に誰の姿もない。
十数人が集まるはずであったが、
どうやら一番乗りをしてしまったようだ。

自席について、ただただ人の来るのを待つばかり。
与えられた課題は一応家で済ませてきたが自信がないので、
きっとあとから顔を見せるだろう三郎か兵助か、
あのあたりに聞いてみようと都合よく考えている。

それにしてもあのふたり、どころか、雷蔵も勘右衛門もだ、
夏休みの学校には用事はないはずである。
この一週間ほどを拘束されるのは、
学期末テストの不出来を埋め合わせるため・
補習を命じられた生徒だけなのだから。
それなのにこの数日間、
彼らは毎日やって来ては一緒に補習を受けている。
物好きな奴らもいたものだと思うが、
たまたま苦手教科で点を落としてしまったらしい
八左ヱ門に付き合っているだけだろう。

友人四人に机を四方囲まれて、
補修中の八左ヱ門の様子はそれはそれは肩身が狭そうである。
からかいとツッコミと、
課題に関係のない話題による妨害とを受け続け、
彼はいつもぐったりしながら問題集を仕上げて提出するのだが、
補習が終われば五人でそろって遊びに出かけるようだから、
結果的にはそれほど苦痛でもなさそうだ。
にぎやかだなあ、仲良しだなあと、
透子はいつも彼らを見つめては笑いを漏らす。
同い年の少年についてこういう言い方をするのは
おかしいのかもしれないが、
彼らの仲の良さはなんだかかわいらしく見える。

もうすぐ補習授業も始まる、という頃になって、
やっとちらほらと生徒が集まり出した。
今日はもう補習も終盤とあって、
ノルマを先にこなした生徒は登校してこなくて済むらしい。
それにしても八左ヱ門が必要以上のノルマを
先にこなしているというのは考えにくかったので、
彼と友人たちがいまだにやってこないのは
単に遅刻ということだろう。
彼らがいるだけで教室の雰囲気が明るく、軽い。
いないだけでこうも退屈だ。
透子は待つともなしに、待っていた。
ぼんやりと教科書を繰り出したところに、
がら、と大袈裟な音がして、教室の戸が引き開けられた。
生徒たちの視線が鋭く入口戸に集まる。
ぜいぜいと肩で息をして、八左ヱ門が立っていた。
教室の中を視線で見渡す仕草をし、
透子に目を留めると彼は勢い込んで歩いてくる。

「高槻!」

あまりずんずんと早足に迫ってくるので、
透子は一瞬身を引いた。

「行こう!」
「はっ?」
「ほれ立って」
「えっ、何っ? ていうか、」

唐突が過ぎてそれ以上の反応が返せない。
あれよあれよ、という間に
透子は八左ヱ門に手首をつかまえられ、
引きずられるようにして教室を出ようとしていた。
少し遅れて教室に着いたらしい、
兵助と勘右衛門、三郎と雷蔵が廊下を向こうからやって来る。

「ハチ、……高槻? どこ行くんだ」
「野暮用!」

ほとんど走り始めながら、
八左ヱ門はそれだけ答えて透子を引きずっていく。
階段を降りようと廊下を曲がったとき、
ちょうどやってきた担当教員の木下とすれ違う。

「竹谷、高槻! 補習始まるのにどこ行く気だ!!」
「すんません先生、ちょっと逃げる俺!!」
「せ、先生、私は被害者ぁぁぁぁぁ」

語尾を言う頃には階段を降りきっていて、
木下の姿はもう見えなくなっていた。
玄関では靴を履くのももどかしそうに、
八左ヱ門はまた透子の手を引き校庭を突っ切って
走り始めていた。

「た、竹谷、どこ行くの……!」
「だって、夏休みだろ!」

答えになっていない。
透子は ハァ? と聞き返した。

「補習終わったら、二学期始まるまで会えないだろ!」

だから逃げるんだと彼は言った。
炎天下を手を引かれて汗だくで走る。

「だから……、どこに行くの!」
「どこにも! 夏だ!」

肩越しに振り返り、
八左ヱ門は暑いな! と言ってにかっと笑った。
目も眩むような笑顔を向けられたら、
透子はもう、……許すしかなかった。

「先生には竹谷が怒られてよね!」
「そこはホラ、共犯だろ」
「だから、私は被害者……」
「あー暑いな! 暑いなー高槻!!」

透子の抗議をさえぎって、
八左ヱ門は走りながら視線で空を仰いだ。
鮮やかな青、真白い雲、蝉の声、
アスファルトから立ち上る熱気。

「夏だー!」

八左ヱ門はまた屈託なく叫んだ。
透子はもうあきらめて、一緒に笑った。
まるで夏のかたまりのような奴、などと思いながら、
制服のスカートをひるがえして、透子は走った。

 * * *

うーん小平太と区別がついていない。
いま構想としてある五年生のお話とは
大正時代のパロディなのですが、そっちのおはなしでは
小平太もどきにならなくて済むと思います。

ぺぺろんでは、久々知くんに豆腐ねたは禁止。
単に感覚でやめとこうと思っただけで
深い理由はありませんが、
同じく感覚で竹谷くんに「おほー」は禁止っぽい気分。
定番は誰かしらやってくださるはずだから、
私は遠慮なくがつがつ外していくことにします。

「逃げる」のも好きです。
他の話の展開として「逃げる」コマンドは
オープン当初から用意してあったのですが
先に竹谷でやってしもた……
 
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のねむ
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