長く雨の続く数日間であった。
戻ってきた兵助はあまりに腑抜けた様子であった。 どんな任務のあとでも普段の調子を崩すことのない 兵助にしては実に珍しい。 彼女は心配して、どうしたのと聞いた。 兵助は何も答えなかったが、おもむろに彼女に抱きついて、 その耳元で弱々しく呟いた。
「……任務中とはいえ…… 俺のやったことが間違ってなかったと わかってるとはいえ……」
なにがあったのと、彼女はもう一度優しく聞いた。
「くの一相手とはいえ……女の子殴っちゃった……」
言うなり、うわぁ! と項垂れる兵助に、 彼女は目を丸くした。 確かに、 兵助たちと同じ任務に借り出されていたくの一の級友が、 頬をわずかばかり腫らして帰ってきたのは覚えている。 なにかショックを受けたような様子だったのも 見て明らかだったので、 どんなにか難しい実習だったのだろうと、 慮りはするものの本人に問うことはできずにいたのである。 それがまさか、兵助が手を上げたなどと。 予想外もいいところである。
「な、何があったの……」 「あとで話す……」
兵助はハァ、と思いきり憂いを含んだため息をつき、 やっと彼女から離れた。
「……大丈夫そうだった? 彼女……」 「口もきけないみたいで、心配してたの、私たち」 「……ああ」
やっぱりかと、兵助は更にがっくり肩を落とした。
「……誰かが悪役にならなきゃいけないことは、 そりゃああるのは、俺だってわかってるけどさ……」 「……それを兵助が引き受けたのね」 「うん……」
それで上手くいってくれたらいいけどさ、あの二人。 口では納得しているようなことを言いながら、 兵助はまだまだ項垂れたままであった。 根はひとのいい兵助は、 ときどき思いきり後悔をしてずっしり沈むことがある。 彼女は苦笑すると、よしよしと兵助を抱きしめた。 背は項垂れようが兵助のほうが高いので、 彼女が抱きついたような格好である。 彼は甘えるように、彼女の髪に擦り寄った。
「……素直じゃないものね、あの二人」 「うん……」 「兵助のことは、わかってくれてると思うわよ」 「そうかな……」 「そうよ」
彼女はしとしとと降り続ける雨の庭を見つめた。
「大丈夫よ。やまない雨なんてないんだもの」
そのうち虹すらかかるわ。 優しい恋人の声音に、 兵助はやっと安心したように頷いた。 答えるように、彼女のその身体を抱きしめた。 やっと 帰ってきた と、彼は思った。
■言い訳 そのうちこの小話の奥の方の意味も わかるようになる……はず。 うーん たぶん今日の夜じゅうには。
思いっきり予告編でした(笑 でもまぁお察しの通りかどうか、 兵助のお話じゃないのだ。 ばればれかな!
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