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何もかもすべてに決着がついて、
結果が出て、結論が出て。
気を患わすものがすべてなくなって、
平穏な気持ちで暮らしゆけるようになってから、
彼は近隣のそれなりに賑やかな町に
空き室をひとつ見つけると、
私をそこへ連れてきてくれました。

ここが新しい私の家。

正確には私と彼との家であるのだけれど、
彼が新しく手に入れたお仕事は
ほとんど家にいられないようなものだったので──
けれど、その職場は私も自ら見聞きして
よく知っているところで、いる人のあたたかいのも、
心穏やかに勤められそうなこともわかっているから、
これまでのような心配はしないで済みそうでした。
休日になれば、彼は律儀に帰ってきてくれるし。
気分悪そうに、疲れたように見えることもなく、
お仕事には手応えも幸せな苦労もあるようで、
見ていてほっとさせられることすらあるのでした。

今までと違って、彼は帰宅するとよく、
お仕事や職場の話をしてくれます。
私自身に知った人が多いせいもあるのでしょう。
彼の話に耳を傾け、相槌をうつ、
その時間はこのうえもなく幸福に思われて、
一緒に過ごす時間のほうが少ないとしても、
私は満たされた気持ちで日々暮らしていました。

ある、週末のこと。
いつものように仕事があけて、彼は帰宅しました。
珍しく手みやげのつつみなど差し出すので、
なにかと思ってあけてみれば、
出てくるのは髪の飾りやら、新色と評判の紅やら、
有名老舗のお菓子やら、持て余すほど。

「いったいどうなさったの」
「別に」

言い訳でも始めるかと待ってみたけれど、
彼がそれ以上口を開く様子はありません。
みやげ物にお礼を申し上げて、
夕餉の支度を整えながらも彼の様子を
ちらちらと気にしていましたら、
なにやら言い足りないようなお顔。
手みやげの理由に合点がいくには充分、
なにか、私に言いづらい話を
抱えていらっしゃるのでしょう。
贈りもので機嫌をとらなければ安心できないほど、
それは難しい問題なのかしら。
まったく不器用な、でもわかりやすいお方。

「なにか仰りたいことがおありなのでしょ」

彼は驚いて私のほうを見ました。
数瞬呆けて、苦々しそうに息をつき、頷きました。

「……おまえ、子ども、好きか」

いきなり問われた言葉があまりに想定外で、
私は目を丸くして彼を凝視してしまいました。
居心地悪そうに、彼はふいと目をそらしてしまいます。

「どういう意味です」
「……言葉通りだ」

たとえば身ごもったのを告白するとしたら、
あなたでなく私のほうでしょうに、などと考えながら。
その兆しが今のところはないことが、
ときどき惜しいような気も、このところはするのだけれど。
彼はまだ目をそらしたままで、続けました。

「……いきなり十歳児の母になる気など、
 ないだろう、な……?」

まさか私の他に誰かいいひとが、なんて、
そんなことを思ってみても、
十歳の子がいるとしたらせいぜい彼が十二・三頃に
生まれた子ということになってしまいますもの。
なにか事情がおありなのでしょう。
そこまでをやっと理解して、聞く姿勢を見せると、
彼は少し安心したように向き直ってくれました。

「まずは伺ってから、考えます」
「……わかった」

つまり、実は。
安心してやっと、
彼はなめらかに話を運べるようになったようでした。
彼の話は時折過去のできごとも交えながら進み、
その内に彼自身の強い願い・希望が
込められているのがよく伝わるものでした。
いつしか彼の言う事情に同調し、
一緒に考えて私の出した結論は、
彼の願いごとを受け入れたい というところへ
落ち着きました。

翌日、彼がまたお仕事へ出かけていったあと。
昼もまわろうかという頃、
彼が些細な忘れ物をしていったことに気がつくと、
ふつふつとのぼってきた意欲に
ふたをすることができなくて。
これをお届けしに伺って、
久しぶりに私自身、知己を訪ねるのもよいでしょう。
そんな言い訳を自分に言い聞かせながら、
彼が話してくれたその子ども、に出会ってみたくて。
ちょうど、新しい紅も髪飾りもあるのだもの。
浮き足だって、私は外出の支度を始めたのでした。






言い訳
いらっしゃいませ。

恐れ入ります、お客様。
間違っておりましたら相すみませぬが、
先日もお越しくださったお方では?

ああ、やっぱり。
だって、とても嬉しそうに見ていってくださったから。
今日はお連れ様はいらっしゃらないのですね。
妹さんでしたの。学校? まぁ。
左様でございますか。
では、妹さんはおうちでお留守番なのですね。
おしゃべりを、申し訳ございません。
どうぞゆるりと御覧になって。
不躾とは存じますけれども、
座ったままでご案内申し上げます。
はい、まあ、おやさしい方。
なにかお問い合わせがございましたら、
なんなりと仰って。

薄皮まんじゅうは、はい、つい先頃仕上がりました、
ふかしたてですよ、良い匂いでしょう。
当店の職人が申しますには、
今日のあんの出来はまた格別だとか。
天気や気温によっても、
お菓子の状態は違ってくるのでございますよ。
そこを見極め、つねに最良の状態でお菓子をつくりあげ、
お客様にお届けできてこそ、
老舗を名乗る菓子店の職人でございますれば。

はい、ありがとうございます。
おいくつ差し上げましょう?
まぁ、そんなにたくさん。
ありがとうございます。
学校で、御友人様とお召し上がりにでも?
おあと、到着までいかほどのお時間がかかりまして?
半日ほど……あの……もしかして……
お客様も忍者のお方?

まぁ 否定なすってもそんなに大慌てなのじゃあ、
ご自分で白状していらっしゃるようなものですわ。
うふふ 大丈夫です 学園に知り合いがおりますの。
学園と当店とにお付き合いやお取り引きがあるわけでは
ありませんけれども、
ですから身内のようなものと思ってくださいな。
お友達は何名様? 四名様。
じゃ、おまんじゅう、おまけです。
お友達の分と、お客様の分。
はい、どうぞ!
おいしく召し上がっていただけますように!

道中、どうぞお気をつけて!
ありがとうございました!






言い訳
御注意
■「宵のみぞ知る」のヒロインと食満くんの会話ですが、
 半回転ほどパラレルが入っていて、
 この二人は恋人同士ではありません。
 食満くんには別に想い人がいます。
 キャラクタだけ採用したお友達話と思ってください。

■ヒロインのデフォルト名がそのまま出てきます。
 変換できませんのでダメな方は回避してください。

※絵板でお礼をしようとしたら
 とんでもなく時間がかかってかえって無礼と悟った。
 ばら日の御礼申し上げます!







先輩達の会話
僕は少し、せかせかして、急ぎ足で、
図書室へ向かっていた。
当番は当番だから、なのだけれど、
ちょっと胸がむかむかしている。

いやなことがあったのだ。
とてもいやなことがあったのだ。
僕自身に起きた話じゃないのだけれど、
むっとしたのは確かだった。

図書室へ入ると、
先に来ていたきり丸に挨拶を返すのもそこそこに、
僕は奥の棚へとずんずん歩いていった。
後ろできり丸が呆けたように、

どうしちゃったんスか、不破先輩、

と、呟いたのが聞こえた。
そうだよね。
気を悪くしていないかな。
ごめんね、きり丸。

でもちょっと、いまはそれどころじゃなかったし、
気が済んでも、話せる事情じゃなさそうだ。
よく考えたらくだらないことなのだ。
僕だって、自分でばかばかしいと思うほど。
だけど気になるじゃないか。

奥の棚のほうへ入っていき、
記憶を頼りにさっと本の山に目を走らせる。
想像したとおりの場所に、目的のものを見つける。
これか。
僕はその本を棚から抜き出して、
ばらばらと、ページを繰った。



このやろ、おまえか。
僕の大事な彼女を泣かせたのは。






言い訳
「ち、近い、三郎……」

「そりゃあ近いよ」

「三郎の他のものなにも見えない……」

「いいよ、見なくて」

俺だけ見てろとはちょっと言えなかった。

さすがに恥ずかしいよな。うん。

俺も万能じゃないってことさ。うん。

この状況を説明すると、勢い。

こう、がばっと。

気がついたらこうなってしまっていたあとだった。

いや、それなら、退かないだろ? 男として?

こいつが嫌がったらそれは別だけど。

きかん気の強い、やんちゃな奴だけど、

こうしてみたらそりゃあ、女の子だ。

ああ、目がうるうるしてら。

顔も真っ赤だ。

ちょっと震えてるか。

板の間に散った長い髪が見蕩れるほどきれいな曲線をそこに描く。

ついこの間、俺とこいつとは、“仲直り”をしたところだ。

今まで通りに仲のいい友人同士に戻ったけれど、

お互いがお互いを好きらしいということは知っている。

男女の友情も成り立つもんだと俺は思ってるけど、

こいつは友情というのとはちょっと違う相手だ。

他の男が手ェ出したら妬くだろうし、

なにごとかが起こる前に奪い返しに行くだろうな。

それでも恋人同士じゃないんだぜ。

おもしろいなー。ははは。ってぇ他人事かっつーの。

でも、こうなってしまったら。

そうとばかりも言ってられないよな。なぁ。

「さ、三郎……」

「んー?」

「なにする気……」

「このままちゅぅしたら、また殴る? おまえ」

「……たぶん」

「じゃ、覚悟しとくわ」

「うそ……」

「嫌か?」

意地の悪い質問だ、我ながら。

答えなくていいよ。

なんとなく、おまえの考えてること、俺はわかるから。

似たもの同士なんだもんな、つまるところ。

素直になってみたいよな。

そしたら、きっとおまえは可愛いよ。

でも俺が素直になったら気持ち悪がられるんじゃないかな。

どう?

でもさ。

この衝動は。

考えるのも数拍遅れてほら見ろ、これだよ。

これが俺の本音ってことか。

ざまぁねぇな。鉢屋三郎。

あー、太股やらけぇなぁ。

口にも顔にもこれは出せない。

だってなぁ、セクハラはなぁ。

言おうものなら即平手打ち。

即座によけられる体勢とは言い難い。

いや、やろうと思えばできるけど、

……もうちょっとこのままくっついていたいような、気がする。

「三郎……」

「だって」

「え……」

「だってさ……好きだよ」

キョトーン、目をぱちぱち。

ああ、素直になった三郎さんは、やっぱ気持ち悪いですかね?

言いたいことも言わないでバカやってたほうが俺っぽい?

おまえの前でまで、ごめんだ、そんなの。

「嫌なら抵抗しろよ」

身体中が熱い。

きっと俺も、赤くなってるんだろうな。

唇が触れる間際に、

抵抗なんかしないで、目を閉じてくれるのがわかった。

ああ、もう、もう、それだけでいいよ。

なにもいらないよ。

よかった。

なんでか、安心した。

好きだよ。

言えてよかった。






言い訳
 
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