設定が飛んでるパラレルの『dolls』の
仙蔵編の冒頭部をちょっとくっつけてみます。 仙蔵編で自分なりに どんでん返しみたいなものを仕組んでいて、 公開できる日を楽しみにしているんですけれども、 タイミングがかなりあとになりそうなので 冒頭部だけ…… 設定が飛んでる、ので、ご覧の際はご注意ください。 ただ、シリーズ全体に横たわる人でなし設定は ここでくっつける一部分には登場しないので 説明を割愛します。 詳細設定はもくじページから繋がっている 説明ページをご覧ください。 ■ご注意■ ・仮想19世紀、欧州風のどこかの国が舞台 仙蔵編は立花邸宅のサルーン(サロン)における 会話劇です ・仙蔵とゲストキャラ(名前出ず、誰なのかすぐわかります) の二名はその舞台設定を踏まえた上で 貴族家系のお坊ちゃんということになっています ・仙蔵編は恋愛展開ではありません ヒロインに相当するキャラクタも登場しません こんなところかな ではつづきからどうぞ * * * 友人と名乗る男が面会を求めているという執事の知らせに、 仙蔵はとうとう来たかと腹に覚悟を決めた。 彼の周囲ではいま、実にさまざまな事象が起きていた。 そのすべてはまったく面識のない人々のあいだに 別個の件として発生し、それぞれに別の当事者があった。 しかし重ねてそれらの事情を耳にするうち仙蔵は、 そのすべてに微弱ながら関連があることに気がついた。 たまたま仙蔵の立場に それらの情報が流れ着きやすかったためだろうが、 恐らくその関連性にまで気づいてしまったのは いまのところは彼だけだ。 周囲で起きているすべての件を知り、 そうして俯瞰して全体像を眺めることができたとき、 仙蔵は今日という日がいつかやってくることを早々に悟った。 そしてそれを恐れた。 自分が下手を打ってはならない、 さもなければすべてが壊れてしまう。 それを守るため、彼はあることをかたく心に決めた。 その決心がいま、試されようとしている。 ──やあ、仙蔵? 唐突に押しかけて悪いね、忙しいんだろうね? ──いや、問題ない。久しいな、このところはどうしていた。 ──うん、僕は変わらないよ。街のお医者さんだよ。 ──それは頼もしいことだ。 仙蔵はあでやかに笑った。 幼い時分から学びのほとんどを共にしてきた友人の 久々の来訪だった。 仙蔵が法律をおさめることを選んだとき、 この友人は何をまかり間違ったか 警察官として勤務することを選んだ。 もとから励んでいた医療の道へ 進むものと思っていた友人が それを活かして現場の捜査の役に立ちたいと 言い出したときには、 仙蔵もあいた口がふさがらなかったものだ。 ──仙蔵は、どう、相変わらず? ──ああ、アホどものお守りにうんざりしている。 腐りきった国の現状に気づきもしないで 上流階級とは笑わせる。 ──そこまできっぱり言い切ってくれるともう小気味良いね。 ──生意気だと評判だがな。 ──それくらいでいいんだよ、 法律をつかさどる人はたとえ国を相手取っても 正しくなくちゃいけないもの。 そうだな、と仙蔵は静かに答えた。 天井が高く、 大きな窓から日がさんさんと差し込むサルーンは 立花家のご自慢の一室であった。 友人に椅子をすすめ、茶と菓子を振る舞う。 仙蔵はすでに歴史と伝統というあおり文句のついてまわる 立花家を事実上継承しているが、 肩を並べるほどの名家の出である友人は 警察を辞したあとに下町で医院を開業してしまった。 似たような境遇に生まれ育って なんとした差だろうと思うと彼の内心は常に複雑だ。 ──あとはお嫁さんをもらうだけなんじゃない、仙蔵? ──ああ、お前までそれを言うか。放っておいてくれないか…… ──立花家の若当主が独り身だなんて、 周りはさぞかしうるさいだろうね。 ──飽き飽きしている。 妻帯している暇なんぞないというのに。 ──ま、お年頃ということでしょう。 ──確かに…… 最近周りではよく聞くようになった、 つい先日も報告があったからな。 ──なのに君ときたら昔から、 自分の専門にばかり熱心なんだからね。 ──自分の専門にかまけた結果 実家まで放り出したお前にだけは言われたくない。 苦々しい顔で仙蔵は友人をひとにらみした。 一方で友人は楽しそうにころころと笑っている。 ──嫌だな、僕はなんてことないけど、 君は女泣かせで有名だったはずだよ、罪な奴。 ──私がいつ誰を泣かせたというのだ! 泣いたとしても女どもの勝手だ、私は関与しておらんぞ。 ──ほらあ、そういうところが。 ──女という生き物はそもそも、根本的に理解できん。 ──君の理解が深いのは 法律で判断できるものだけ、だからね。 女性と法律とは絶っ対相容れないもの。 ──知った口をきく。お前はどうなんだ。 ──僕? 僕はね、 このあいだプロポーズされたよ、と 友人はビスケットに手を伸ばしながら言う。 仙蔵はつい虚を突かれて目を真ん丸く見開いた。 ──なんて顔してるの、本当だよ。 ──相手はまあ、七歳の女の子だったけど? ──転んでちょっとした怪我をしたというので 包帯を巻いてあげたら、お嫁さんになってくれるって。 友人はおかしそうに笑い声を立てた。 言っているのは本当のことなのだろうが、 からかわれたには違いない。 仙蔵は少々気分を害した、というような顔を作ってやった。 ──そうした趣味があったとは知らなかった。 ──女泣かせよりたちが悪いぞ、医者の幼女趣味など。 精一杯言い返したあとで、 仙蔵は自分の言葉に少々どきりとした。 下卑た言葉と話題とにも 立花家の若き当主たるもの心を配るべきであったろうが、 それで話題が恐れていたほうに わずかに近寄ってしまった気持ちがしないでもなかった。 友人がただ昔を懐かしみに訪れたわけではないことを、 仙蔵は最初から承知である。 にこにこと害なく笑っている友人はその実、 仙蔵の腹の内を探る思いで世間話を繰り広げているのだ。 何事もなかったような顔をしようとして、 仙蔵は少し無理をして笑った。 ──今日はどうした、久々に実家に帰りでも? 声が少しばかり、不自然に上ずったかもしれない。 落ち着け、私ともあろう者が。 仙蔵は息を詰めて友人の答えを待った。 ──いや、ちょっと聞きたいことがあって。 本題がチラと見え隠れし始めた。 ここからが勝負なのだ。 開廷、一同、どうぞご静粛に。 裁かれるのは誰だ? つづく |
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