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最近、更新が少ないからせめて、と言いながら……

ストックにあったものを出してくるのはいいのですが、
自分としてはブログサイズだろうとしか思えない話を
わざわざファイルに起こしてアップするという、
なんかちょっとずるっぽいことをしてしまっていて、
ちょっと嫌です。はい。

そういうわけで、いつもの逆を辿りまして、
ちゃんとページ作ろうかなと思っていたものを
ブログに落っことしました。
ゆえに名前変換がありません。
つづきからどうぞ。
企画用のお話は16稿目に入りましたorz
くっそう始まらない終わらない






紳士淑女御一同、
いや、察するところほとんど淑女に違いない、
ともあれ御機嫌よう、神出鬼没の“くせ者”だよ。
こんな辺鄙なところへよくまあのこのこ来たものだ。
退屈しのぎに“くせ者”が世間話を御披露申し上げよう、
なに、大した時間は取らせはしないさ。

“くせ者”は忙しい。
なにせ見るからに“くせ者”といった風貌なものだから、
人目に留まれば大体追われる。
このあたりの流れは想像に難くないわけで、
熱心かつ優秀な部下にテキトぉーに仕事を分配して
ちゃっちゃと片付けてもらうことにしている。
おかげで仕事はいつもたいへん円滑である、
それが日常であると言えるほどには。
大変結構。

もうちょっと自分で働けって?
嫌だな、三桁人もいる部下をまとめるエライ人ってのも
なかなか骨が折れるものだよ。
出来る上司は愛されることも仕事のうちだ。
身のまわりの世話を若い者にまかせるのだって、
世間と社会の仕組みや厳しさを教えてやるためなのだよ、
それは若い部下たちの輝ける未来のために
いま必要なことなんだ。
だから私は泣く泣く心を鬼にしてやっているわけ、
御理解いただけたかね、お嬢さん。
──大変結構。

聡明な女性は好もしく思うよ、個人的にね。
ところで実は紳士もそこにいるとしたなら、
うん申し訳ない。

“くせ者”はそうして日々忙しなく、
身を粉にして立ち働いている。
最近ついちゃったあだ名が「粉もんさん」なものだから
まったく手の込んだオヤジギャクみたいじゃないか、
そんな寒いこと言うような年じゃないよ、私は。

働いているのは忠誠を誓ったあるじのため。
けんかを愛するあるじなものでね、
勝利を手にするために様々な作戦も立てる。
相手方の狙いを先読みし、策を弄して仕掛けを施し、
騙し合いや駆け引きも行う。
たださっきも言ったように“くせ者”は目立つので、
ここらへんも部下に頼んでやってもらっちゃう。
目立たないのが忍者の仕事のひとつだろうが、
百戦錬磨の“くせ者”といえどもこればっかりは落第点だ。
いまとなっては致し方ないと割り切るよりほかにない。
忍者界でも指折りの働きを見せる私なのだから、
この点ひとつくらいは右目を瞑ってゆるしてほしい。

日々忙しい粉もん、いや違う、“くせ者”は、
疲れがたまってくると
とっておきのオモチャで遊んで
ストレスを発散することを試みる。
意気揚々と出かける先は、忍者を育てる学校だ。
いつも不法侵入してみるし(わざとだよ)、
部下のひとりなんかその学校の先生に
しつこくけんかを売りに行きたがるし(止めないよ)、
“くせ者”は“くせ者”らしさを
フルにアピールして臨むというのに
お茶は出るわ夜食は出るわ。
“くせ者”が相手でも差別なく至れり尽くせり、
オモチャたちの奇想天外な振る舞いに
私はすっかり懐柔されてしまっている(まあ、外面だけはね)。

オモチャたちはドジッ子揃いでとても可愛らしいので
見ているだけでもなんだか和むのだけれども、
とびきり気に入っているひとりは
“くせ者”が“くせ者”であることをちゃんと覚えていて、
オモチャの後輩たちを“くせ者”からかばおうと
ひとり警戒しているので遊ぶには少々もどかしい。
ときどきその子が纏う不穏そうな雰囲気は
肌にぴりぴり突き刺さるようで、
なんともたまらず危険な感じがする。
同じ遊ぶなら簡単に制覇できるよりも
多少の苦戦が演出されるほうが面白いに決まっているから、
その子の存在と塩梅とは本当に理想的なんだ。

「組頭」

──失礼、紳士淑女御一同、ちょっと呼ばれてしまったので。

「どこへ向かって喋っていらっしゃるんです」
「さあ、枠線の外側とか、コマの裏側とかなんじゃない」

モニタの向こう側、かもしれないね。

「それはさておき……
 いつまでここにいらっしゃるおつもりなんです」
「いつまでここに、というと?」
「……もうずいぶん長いことこうしていらっしゃるでしょう。
 様子をうかがうばかりでなぜ中へ入ろうとしないんです」
「入門票にサインするのを忘れちゃってね」
「いつもしないくせに……」
「そうだっけ?」
「ところで組頭、常々申し上げていますが」
「なんだ」
「……足を揃えて座らないでください」
「……なんで」

優秀な部下揃いだが皆ときどき頑固で、
人の個性を認めようとしないところがある、
何度も注意しているのにこれだけはなかなか浸透しない、
困ったものだ。

さてご紹介しよう、実は目の前に見える光景は
例の忍者の学校の敷地の一部だ。
もっと詳しく言うとこれは医務室前の菜園で、
この学校の保健委員の面々が薬草を育てている畑だ。
“くせ者”のオモチャたちというのは、
この良い子揃いの保健委員たちのことなのだよ。

ここまで話して聞かせてきたとおり、
“くせ者”は仕事の出来る切れ者の上司、
優秀な部下に恵まれた・自身も優秀な忍者だ。
百戦錬磨の経験を誇り、
戦う相手方との駆け引きや騙し合いにも長けている。
戦局を読むのもお手のものだ。

このところ、オモチャの中でも気に入りの彼が
少しばかり様子がおかしいと、
“くせ者”はちゃあんと気がついている。
忍者には「三禁」と呼ばれる戒めがあるが、
彼は恐らくその禁のひとつをやぶりつつあるのだ。
押しとどめなければと必死で理性を戦わせているが、
感情というやつは高ぶると厄介でね、
押され負けそうになって彼は苦しんでいる。

いま医務室の中には
彼と彼の苦悩の原因たるひとりのくの一の少女がいて、
互いに腹のうちを探り合うような会話を
空回りながら繰り返し続けている。
“くせ者”はそこで空気を読んだ。
なんか上手くいきそうな雰囲気なんじゃないの→
伊作くんなにやってんのチャンスなんじゃないの→
彼女に言わせるつもりか、男らしく腹をくくりなさい→
割って入るのは無粋というものだろう→
遠慮、覗き見、イマココ。
若いっていいねえ、とか、思っちゃっているところなのだ。
なんせうちの若手でも十九歳。
未熟さは残っていても、
感情と折り合いをつけるすべはそろそろ身についている。
一方で彼──伊作くんは十五歳。
とうにお年頃のピークも過ぎる頃だけれど、
一生懸命忍の修行を頑張ってきた。

いいんじゃないかな、少しくらい若さが暴走しちゃっても。
遊ばれるだけが君の人生じゃないさ、もちろん。
おじさんは応援しているよ、いやホント。

“くせ者”は優秀な忍者だから
強い感情にも戦って勝つことができる。
だから、今ものすっごい疲れていて、
オモチャたちに歓迎されてお茶出してもらって
遊ばせてもらえることを心身から欲しているんだけれど、
我慢してその場を譲ってあげちゃおうと思っている。
だって、“くせ者”はいい年こいた大人なんだからさ。
よく出来た大人は若い者を見守るのも仕事のうちだ。
疲れているのに疲れた顔をしないことも、
ときどき求められたりするものさ。

「組頭」
「タイミングが悪かったようだね。
 今日はこのまま退くとしようか」
「はあ、よろしいのですか」
「うーん、もうちょっと見ていたいけどね……」

親愛なる若い友人に気の毒なことだし、失礼だしね。
ああ、遊びたかった、心底遊びたかったけれど。
ここへ来ると“くせ者”はただの“くせ者”でいられて、
組頭なんて立場を放ったらかして遊んでいられるので、
子どもに戻った気分を味わえる、それがいいんだろう。
ないに等しかった青春とやらに触れることができるし。
今日はお預け、欲求不満が破裂しそうだ。
しかしまあ、我慢しようじゃないか……
伊作くんの輝ける未来のためだ。
大体にして、“くせ者”本人以下百名の部下たちは、
そもそも伊作くんや忍者の学校とはつかず離れずみたいな
微妙な距離感を持っている関係なのであって。
彼の青春に関与するもしないも選ぶほどの間柄じゃあないんだ。
完璧に、完全に、赤の他人です。
まさかお友達じゃあないし、どっちかというと、
ちょっと敵っぽいかもしれないね。
ほら私、“くせ者”だし。
すごいスリルぅ。

さて、お喋りはこのあたりで、
“くせ者”は根城に帰る時間なのでね。
御多忙中お付き合いどうもありがとう。
退屈しのぎになった?
それはそれは、驚いたね、お暇だったの。
だって退屈しのぎに世間話って、
暇をもてあましていたのは“くせ者”のほうだったんだもの。
医務室に行こうとしたら、
なんだかるんるんした空気が流れて来ちゃったから、
仕方ないじゃない、入りそびれたんだよ。
なんにもすることのない待ち時間って、
苦痛かってくらい退屈なんだ。
そう、退屈は人を殺せるよ、大問題だろう。
そこへ新たにオモチャを見つけたことは幸運だった、
つまり君のことだ、紳士淑女御一同。
私のためにありがとう、時間を割いてくれて。

「組頭」
「うん、じゃあ、行こうか」

“くせ者”らしく、結ばれたてほやほやの可愛い恋人同士を
からかいに割って入ったらどうかって?
嫌だな、最初に言ったじゃないか。

“くせ者”は忙しいのだ。
神出鬼没と言うものの・ひとの恋路の邪魔をするほど、
自由なばかりじゃいられないのさ。



『いちばん不器用』
 いちいち、その回りくどさ。
 
プロフィール
HN:
のねむ
性別:
女性
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