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※食満くん視点・彼の口調で進みます
  ヒロインは登場しません


約束もない、予定もない、
少し時間に余裕のある日の夕方だった。
ほとんど暮れかかった空に、
名残を惜しむように茜色がにじんでいる。
雲ひとつない天空には早々と一番星輝いていて、
ただぼんやりと見上げていると、
わけもなく心許ないような切ないような、
そんな気分がしてくる。
こういう感覚を、人恋しいとか言うんだろうか。
最近やっと恋人同士になれた相手に思い当たるより先に、
俺の脳裏によぎったのは子どもの頃の記憶だった。
小学生当時、まだ誰も自分の楽器に出会って間もない頃。
無性に懐かしくて、
さっさと帰って練習室にこもるべきなのに、
俺は今出てきたばかりの校舎へ戻ろうとしていた。
迷路のように入り組んだ廊下を先へ先へ、
向かうのは普段あまり足を踏み入れない区域だ。
ヴァイオリンよりもやや低い、
弦楽器特有のなめらかな音が響いてくる。
講義室のドアのガラスからそっと中を覗き込んだ。
薄暗い室内で、
チェロを弾いている長次の背中が見える。
耳元をくすぐっていく旋律は
バッハの無伴奏チェロ組曲の
第一番・プレリュードとサラバンド、だ。
ヴァイオリンほど音に鋭利さを感じないというか、
ぬるま湯がせせらぎになって
やわらかく耳朶を撫でていくような、
チェロのそういう音の響きが俺はすごく好きだ。
木でできた楽器の音だ、という感じがすごくする。
長次が演ってるから、というのもきっと大きいけど。
演奏が終わって長次が肩の力を抜いたのを見計らって、
ドアの外から拍手を贈る。
長次はそれで俺に気がついて、
振り返ると視線で「入ってこい」と言ってくれた、と思う。
遠慮なく従って講義室に上がり込み、
手近な椅子に腰掛けた。

「それ、今の課題なのか」
「いや。弓ならしだ」

好きな曲だから、と長次は言葉少なに言う。

「何か用があったのか」
「や、帰るとこだったんだけど」
「今日は約束はないのか」
「ないない」

彼女と約束をしていないのか、と長次は言いたいのだ。
長次なりの冷やかしなのだろう。

「外、空がいい具合でさ」

返事のかわりに、長次は窓の外に目をやった。
開け放たれていた窓から入ってくる風は、
もうすでに冷たい。

「まだ夕日の色も残ってるんだけど、星も出てて。
 ちょっとタソガレちゃって、気分が」
「そうか」
「笑うなよ。
 なんかガキの頃のこと思い出してさ。
 みんな楽器習いたての頃」
「懐かしいな」

長次もかすかに口元で笑った。

「なあ、アレ弾いて、久しぶりに」
「どれのことだ」
「『銀河鉄道の夜』の」
「宮沢賢治か。『星めぐりの歌』のことか」
「かな? 題名が出てこなくて」

長次は黙って弓を取りあげ、弦の上にのせた。










「……なあ、長次はなんでチェロにしたんだ」
「テレビで見て」
「はあ。テレビ」
「芸術劇場という番組の……」
「あー」
「あるチェリストの独演会を放映していた」
「へえ」
「そのコンサートではクラシックを演らなかったので
 取っつきやすかったんだろう、子どもにとっては。
 チェロ向きに編曲されているので原曲とは印象が違うが、
 あの演奏通りに弾いてみたいと思ったのが最初だ」
「ふーん。なに演ったの、そんとき」
「ナウシカの映画の挿入曲を二曲と……
 スノーマンのテーマ曲の『walking in the air』、
 エンヤの『water mark』……それから」
「それから?」



「『風の又三郎』。そして『星めぐりの歌』」


 * * *

私がなんとなくチェロを好きだなと思う理由に
このコンサート映像を見たというのがあります。
父がビデオに撮り、のちにDVDに焼いてくれたので、
ときどき見返して心が凝り固まったのをほぐします。
子どもの頃に得たものってかなりあとあとまで
決定的に自分に影響することがあるなあと思います。
第六曲はモーリス・ラヴェル作曲の『ボレロ』になりました。
音楽素人が自分の好みだけで選曲して取り入れていくと
こういうことになるのですね;
世界の音楽・ベストアルバムのポピュラー盤もいいとこです。
本当にメジャーなところしかわからない。
バッハの無伴奏、というのも知らない曲のほうが多いです。
知っている曲も聞いてみなければ合点がゆかず。

こちらも一年近くが経過しての更新だったので、
アップロードの前に全話読み直してみたりしたのですが、
いろいろと拙かったり浅慮であったりとあらが目につきました。
一年で己の腕は大した進化はしていなくても、
過去の未熟さは手に取るようにわかるものなのですね。

友人のシロちゃんと昨日久々に会いまして、
夢小説の話になりました折、のねむ作のお話には
いわゆるポエムなレイアウトのものがないね、
というようなことを言われました。
本文勝負と思ってレイアウトに凝ることをしていないのですが、
この『Novelette』は例外です。
逆をいって、いろいろなジャンルのさまざまなサイトさんに
共通して見受けられる、まるで定型のようなこのレイアウトを
わざわざやってみようというシリーズでした。

そういうわけでシロちゃん、うちにもあります、このレイアウト。
いざやってみるとやっぱり何か流通しているものとは
ずれている感が拭えませんが。

他に倣うことをつまらないと思ってしまうたちなのです。
多少孤独でもいいから、
似たものが他にない面白いことをやっていたいなと。

前章の言い訳で
「次のお話は“休憩20分”にあたる」的なことを
書いたようなのですが(すでに記憶がおぼろげ)、
そこに『ボレロ』を持ってくるとは
身の程を知らないにもほどがございました。。
確かにお話の全体像を見渡してみると
この次の章くらいでひとつ山が来るので、
今回のお話は繋ぎの役割といっても
間違いではないのですが……




つづき
なんとまた
一年以上ぶりの更新となってしまったシリーズです。
すっかり年単位更新になっていますね;
おかげで一話ずつの文章の雰囲気やらが
少しずつ違うという。
こまったこまった。

サイト全体で見ても室町版の更新は去年の11月ぶりです;
(小松田さんの単発ものはちょっと含めがたいので)

副題がちょっと不吉な感じですが
ここからたぶんご想像通りの展開になっていきます。
想像のつく展開なのですが、
どこかで読んだなあという印象には終わらないように
ぺぺろん独自ぽく書けるようがんばります。。

それにしても題名が毎度気になるシリーズです。
開始当時はなんかめんどくさい読み方を設定してたんですが
途中からもうどうでもよくなって。
字面が好きだからという理由だけでつくってしまって
読み方は設定していないということが結構あります。
今この題名は自分では「うなさかきぶん」と読みますが、
なんていうか
「せぶん♪いれぶん♪いいきぶん♪」のお友達みたいな気が(笑

お気持ちが向きましたらば
続きを探しに またいつでもお越しください。
ありがとうございます。
一年近く、と思っていたら一年と三か月経っていた
心底申し訳ないorz

コージver.6の言うことには、
『アメフラシ』とはアメフラシ科の腹足類に属する
巻き貝の仲間の生物のことだそうです。
かたつむりのようななめくじさんのような、
そういう姿をしています。
貝殻は退化しており、体内にあるらしいです。
普通に生物として実在するものの名称であって、
妖怪・あやかしとしての『あめふらし』は
私のでっちあげということになります。
作中の言葉をもちいれば

「やたらめったら雨を降らせる」
「雨を降らせるしか能がない」
「狐の嫁入り」
「通り雨」

という名前通りの性質の目立ついきものですが、
雨をコントロールすることで天気を操るという
もう少々広い役割をもっているイメージでした。

お題については本来もう少し違う扱いをすべきで、
妖怪が何かやらかした結果の忘却、という
効果としてえがくのがよかったのでしょうが、
全体のおはなしの流れに目を向けすぎた結果
妖怪という存在と忘却というテーマとが
特に関連しない事態になってしまいました。
テーマがあまり目立たないけれど、
せめて読んだ方の
多少の楽しみにくらいなってくれればいいなと、
願います。
珍しいくらい自信ないですが。
『あめふらし』がちょっと無個性すぎました。
無個性、ではないか。
印象が薄すぎた、かもしれません。

一年三か月、最終稿までに22編を試しました。
夢屋歴ふた桁行かないくらい、ですが、
こんな難産初めてでした。
最終的に伊作に落ち着いていますが、
それまでに仙蔵、数馬、作兵衛、乱太郎と
何人ものあいだをうろうろと相手取り、失敗orz
どれもこれもヒロインの無個性・無印象が
ネックになっての失敗だったように思います。
ほうぼうにご迷惑をおかけしました。

これが上がるまで他の話は書くのやめようと
途中から決めてしまったので、
サイトが動かなくなっていました。
これから少し動きを戻せたらいいのですが。

言い訳でした。
設定が飛んでるパラレルの『dolls』の
仙蔵編の冒頭部をちょっとくっつけてみます。
仙蔵編で自分なりに
どんでん返しみたいなものを仕組んでいて、
公開できる日を楽しみにしているんですけれども、
タイミングがかなりあとになりそうなので
冒頭部だけ……

設定が飛んでる、ので、ご覧の際はご注意ください。
ただ、シリーズ全体に横たわる人でなし設定は
ここでくっつける一部分には登場しないので
説明を割愛します。
詳細設定はもくじページから繋がっている
説明ページをご覧ください。

■ご注意■
・仮想19世紀、欧州風のどこかの国が舞台
 仙蔵編は立花邸宅のサルーン(サロン)における
 会話劇です
・仙蔵とゲストキャラ(名前出ず、誰なのかすぐわかります)
 の二名はその舞台設定を踏まえた上で
 貴族家系のお坊ちゃんということになっています
・仙蔵編は恋愛展開ではありません
 ヒロインに相当するキャラクタも登場しません

こんなところかな
ではつづきからどうぞ

つづき
 
プロフィール
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のねむ
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